ニシザキ工芸株式会社 塗装部

  • ニシザキ工芸株式会社 塗装部について
  • 施工例
  • 木工塗装ライブラリー
  • お問い合わせ
  • ニシザキ工芸(株)塗装部 工房日誌 2
ニシザキ工芸株式会社

木材塗装ライブラリー

半ツヤ消し塗装仕上げ

工業製品の「仕上フィニッシュ」には流行がある。家具やインテリア関連商品にも当然、これがある。この「仕上」は大別すると、

  1. 色相の流行
  2. 材質感テクスチュアの流行
  3. 表面の光沢(艶の有無)の流行である。

1. の色相の典型例では、ワインレッドや黒の家具が大流行したことがあった。ご記憶だろう。 2. の材質感の流行の典型例は自動車にあった。あの「メタリック仕上」である。いかにも固く冷たい金属の感じがするあれである。べつに、オーディオ機器では「シルバー調」というのが流行したこともあった。 3. の表面の光沢では、SK(システムキッチン)で鏡面仕上の扉が流行したことがあった。

(写真左)7分ツヤ消し仕上、(写真右)5分ツヤ消し仕上
(写真左)7分ツヤ消し仕上、(写真右)5分ツヤ消し仕上

まず「用語」を正しく理解すること

賢明な読者ならもうお気づきの通り、筆者は「半艶消塗装仕上」と書いた。ところが読者からの問い合わせの大半は「半艶消塗装」と言っていて「仕上」の2文字がないのである。
重箱の隅をつつく積りはないけれど、前項でくどいくらい述べた通り、この仕上の2文字があるかないかが、実は大切なのである。 なぜなら「塗膜の艶」の有無について解説することはできるけれど、それは「半艶消塗装」という塗装方法を語ることとは違うからである。詳しくはおいおい説明するけれど、塗装について語る、ぜひ「用語」を正確に理解した上で、正しく使ってほしい。 そうしないとこの「艶」の部分でもまた、設計者やデザイナーなどの「発注する人」と「塗る人」との間で行き違いが発生する怖れがある。そこで、これまでにすでに言及したことも含めて、塗装の表面の艶についてプロに詳しく説明してもらって、改めて報告することにした。

1. 塗装の表面と「艶の有無」の関係
塗装の表面に「艶」があるかないかは、何で決まるのか?その答えは、光の反射率である。塗膜の表面に当たった光を大量に反射する塗膜は、「艶がある」と言われる。反対に、大半の光を吸収してしまうか、あるいは乱反射して光の反射方向が定まらない塗膜は、「艶がない」ということになる。
だから、艶を出したいなら塗膜の表面を平らにしなければならない。すでに述べた鏡面仕上げのようにピカピカにするためには、表面は文字通り「鏡のように」平らにする。
それには「研磨」の工程が不可欠である。塗料を塗る方式は様々あるが、艶を出すためにはとにかくその表面を平滑に研ぎあげなければならない。従って、塗膜はこの研磨に耐える厚みが必要で、塗料の量はその分だけ余分にかかる。だから艶がある塗膜にする方が当然硬化になる。塗料や塗装法の違いがあるから比較するにはむずかしいが、大ざっぱに言えば「艶消仕上」の4~5倍になる。ただし、この価格差の大半は研磨工程の「手間賃」で、塗料代金の差はほんの少しなのだという。

2. どんな塗装仕上にも艶の有無はある
もうお分かりだろう。大部分の塗装仕上は、「艶あり」にも「艶消」にもできるのである。たとえば木材透明着色仕上にも、下地をすっかり塗りつぶしてしまうエナメル塗装仕上にも(以下略)、艶を出す仕上法と消すそれがある。先に述べたように、特別の「半艶消塗装」という仕上法が独立して存在するのではないのである。
ちなみに、塗料メーカーが出荷するインテリア関連塗料の9割は、何らかの艶消し材を含んでいるという。これを含まない、つまり艶ありに仕上げる塗料は約1割で、これで分かる通り「艶を消す仕上」の方がずっと多いと言えるのである。

塗料そのものの方から見れば、合成樹脂製で天然素材のものでも、塗料は全て「艶あり」と思っていいのだという。だから、そのまま塗ると当然に艶有になる。これを艶消しにするには、塗膜の表面をザラザラにする必要がある。そのための最もポピュラーな手段が「艶消材」と呼ばれる、非常にこまかい粉状(パウダー)の物質を混入する方法である。最も一般的なそれは「シリカ粉」である。このパウダーは塗装現場で塗る人が調合し混入する方法もあるが、最近では塗料メーカーで「○分艶消用」に調合した「既製品」の塗料の方が多くなっているという。

これをもっと別の分野で発展させた塗料が、すでに解説した「スエード調塗装」に使うもので、これには真球ビーズやプロテインパウダーが混入されている。これなどは「艶消塗装仕上」の一方の代表例と言ってもいいので、単に「艶を消す」だけでなく、その「手ざわり感覚」までスエードに近づけてしまったわけで、テレビやビデオなどのAV機器をはじめ自動車にも多用され始めている。

なぜ艶消塗装仕上の方が多いのか?

上の小見出しの答えは様々あって、答えるのは簡単ではない。それでも強引にその最大公約数的な回答を「塗る方のプロ」に迫ったら、苦しみながら次のように答えてくれた。 それは、

  1. 輝度が低いので目にやさしい
  2. 表面の手触り感もやわらか
  3. 工程が艶ありより簡単である
  4. トーンが揃えやすく量産に向く
  5. 総合してコストが艶あり安い

ということだろうという。事実、木工塗装の世界、それも現在もっと多い木材透明着色仕上では、「半艶消仕上」が圧倒的に多くなっている。
ところで、木材透明着色仕上と半艶消仕上を一緒にする場合はどうよべばいいかも、念のため示しておこう。
これは、「木材透明着色半艶消仕上」あるいは「半艶消木材透明着色仕上」という。どちらを先に言っても間違いではない。この仕上の特徴は、

  1. 木材は着色されている
  2. 木材の表情は見えるがボケている
  3. 艶消仕上で一種の曇りがある

なぜこの仕上法が多用されるかは、木材透明着色仕上の項で述べたので簡単に繰り返すと、表情が微妙に違う木材を使っても仕上後の調子(トーン)が揃えやすいからで、SKや収納家具などの量産にはもってこいの手法なのである。工程管理のうえで逃げやすい、と言ってもいだろう。
だから、高級で(従って高価で)かつ表情がはっきりしている樹種、たとえばバーズアイ・メープルを使う場合は、まず艶消し仕上にしない。ほば大部分が表面をピカッと磨いた「艶あり仕上」である。木材の表情を強調したいならば、艶ありの方がはるかに引き立つからである。バーズアイ・メープルは鏡面仕上にする場合も多いことは、ご存じの通りである。

家電製品や家具などの単品の製品(プロダクツ)でも艶消仕上の方が多いのだから、インテリアの内部塗装となると、もう圧倒的に艶消仕上である。ちょっとご自分の周囲を見まわしてみれば、納得できるだろう。特に天井と壁のインテリア塗装は、大半が艶消仕上である。
このインテリア塗装には専用のそれがあり、その種類はとても多いことはご存じの通りで、これらは大半が「○分艶消用」としてあらかじめ調整されている。だからこれを使う場合は、前もって「○分艶消用」と指定する必要がある。塗料メーカーによって用意されている種類に差はあるが、3分、5分、7分、10分くらいが一般的だという。
ちなみに、この3分や5分という数値は、全て「消(けし)」の値であることはすでに述べた通りで、これを絶対に間違えないこと。

艶消塗装仕上の特色をまとめる

「塗膜の艶」について解説しているのだけれど、内容は「艶消仕上」の方がずっと多くなってしまった。つまり、それほど艶消仕上には解説する項目が多いわけである。以上のことは、これまでいくつかの塗装とその仕上の表情を述べた所で言及したけれど、いずれも断片的だった。そこで、艶消し仕上と呼ばれる仕上法の特色をまとめておこう。

1. 塗膜の表面は「艶あり」より弱い 塗料を塗って艶消に仕上げるには、その中に粉状(パウダー)の物質を混ぜる。塗装の現場で塗る人が混ぜる場合もあるし、塗装の中にすでに混入されている場合もあるのは前述の通りだが、この艶消材を混入するという原則はほぼ全ての塗料にあてはまるという。この粉上の物質が塗膜の表面に現れて、オーバーに言えば表面がザラザラになる。このザラザラのせいで、ここに当たった光が吸収されたり乱反射されたりして、結果として艶が消える。

つまり艶消仕上には必ず異物が混入されているわけで、その表面の総合的な強度は、同じ塗料ならば「混入されていないもの」より、その分だけ弱い。そして、5分艶消仕上と10艶消仕上なら、10分の方が弱い。混入物が多くなればなるほど、弱くなる。具体的に言えば、傷がつきやすいのである。
従って、テーブルの甲板やカウンタートップに代表される「水平の部分」は、艶消仕上にする時は「要注意」である。水平の部分は必ず物を置くからで、スリ傷がつきやすい。
だから、水平部分を艶消仕上にするなら、最高でも「7分艶消」くらいにした方がいい、とプロは言う。最近の塗料と艶消しパウダーの技術は随分と進歩して、相当に強くなったそうだが、それでも7分艶消しくらいで止めておいた方が安全だろうとのことである。
垂直部分なら、水平部分よりは物と摩擦する機会が少ないから、場合によっては10分艶消しにしても大丈夫である。ただしそれも時と場合によるから、7分以上の艶消仕上にする時は、プロと前もってよく相談して、塗料や塗装法を正しく選択してもらった方がいいだろう。

2. 色は濁って見え、下地はボケる
艶消仕上の場合、塗りつぶしのエナメル塗装仕上なら、その色は白っぽく濁って見える。
透明着色塗装仕上なら、下地がぼけて見える。木材なら下地の木目がぼやけてクッキリしない。

3. 艶が変わると色感も変わる
同じ着色剤を使って色をつけても、3分艶消と5分7分(以下略)では、色が違って見える。
艶消の度合いが大きくなればなるほど、色は白っぽくなるからである。その表面の艶(光沢)が変わるということは、色まで変わって見えるわけで、この点をよく知っておかないと、塗ってしまってから問題が生じることになる。場合によっては、同じ着色剤を使ったとは思えないほど変わって見えるというから、ぜひ注意しなければならない。

4. 毎日拭いていると艶が出てしまう
この点については多言は無用だろう。毎日カラ拭きしていると、研磨しているのと同じことになり、光沢が出てしまうのである。

工作社「室内」設計者のための塗装岡田紘史著より