ニシザキ工芸株式会社 塗装部

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木材塗装ライブラリー

設計者とデザイナーの関係

もう技術的に不可能なことはない

ウッドテクニカラーバイブル現在、我が国の塗料とそれを塗る塗装の技術は「世界の超一流」と言っても過言ではありません。どこに出しても恥ずかしくないし、塗れと言われて塗れないものは何もないというほどです。
しかしながら、「塗装されたもの」のレベルとなると、残念ながら胸を張って世界一のレベルであるとは言えない部分が未だたくさんあります。世界一の塗料と塗装技術を持ちながら、なぜ塗られたモノの結果が世界一ではないのでしょうか。(写真/「WoodyWorld ウッドテクニカラーバイブル」(社)日本塗料工業会 塗料用標準色 )

設計者やデザイナーとの関係

戦後も昭和30年代前半の頃までは、塗装の技術の進歩もまだ遅かった為、設計者などは塗料と塗装に関しても「知っていること」の方がはるかに多く、その知識で業者(あるいは工場の塗装担当者)に指示をすれば、その当時なら十分に優秀な結果がでていました。
ところが、昭和40年代からの加速度的な技術革新がはじまると、塗装の現場にいるプロでさえ、これに遅れずついてくことが大変になってきたのです。まして現場にいない設計者やデザイナーが、塗装のプロ以上に新知識を吸収することはとても困難です。

この「知識のギャップ」が、結果として「塗られるもの」の完成度にあらわれてしまう理由の一つと言えます。もう一つの理由は、建築家やデザイナーを養成する「教育」の内容に問題があります。塗料と塗装に関するカリキュラムはわずかで、しかもその教育内容はとても古く、ほとんど実際の役には立たないレベルのものなのです。設計者やデザイナーの多くは、結果が良くないと不満を抱きます。
一方、塗装のプロは、せめてあの時、もう一言詳しく指示してくれたら・・・と同じく不満を抱きます。この両者の間に今、「共通言語」あるいは「共通の理解」が失われようとしているのです。よってこの掲載は「共通言語」の再構築するためのものであり、設計者やデザイナー(以下、発注者)が現在の塗料と塗装の実態を知っていただくことに力点を置くものです。

なぜ塗装するのか?

最も基本的な部分に戻り「なぜ塗装をするのか」を考えますと、その答えは「保護と美観のため」です。そして第一の目的である「保護」については、既に記述しました通り、今では完璧にその要求に応えることが出来るようになっています。
しかしながら第二の目的である「美観」という点が問題であり、問われるところであります。

「塗る人」は一般的にいって十分な知識と技術はあるものの、感性において劣るところがあります。その為、今後もますます建築家やデザイナーなど創造的なセンスの持ち主に頼らざるを得ないことは言うまでもありません。
だからこそ、これからの塗装においては「発注者」の意見は大事であり、また「こうしたい」という強い意志を、塗る人に正確に伝えないと、せっかくの塗装も「やり直し」になりかねません。「塗り直し」は両者にとって時間も労力もお金も全て無駄になるもの、避けたいものです。

色見本は必ず「塗料用」を使うこと

ではプロに「正確に伝える」には、どの様な注意が必要でしょうか。その第一番に注意すべきは「色」となります。塗装の「色」を指示するとき、大部分の発注者は「色見本」のカラーチップをつけますが、実はこのカラーチップの大部分が「DIC」や「CF」などの「印刷用色見本」なのです。
グラフィックデザインが盛んになり、印刷用色見本の「色数」は厖大な量になりましたので、これから選べばたいていの色は発見出来、便利この上もないのでデザイナーとしてはこれを利用しますが、こと塗装に関してはこの「印刷用色見本」の正確な色は出すことが出来ません。
何故なら、印刷で出す色は基本の4色(黒・赤・青・黄)の小さなドットを複雑に組み合わせて出したもの。それに対して塗料の「色」はほとんどの場合顔料の混合で作るのです(ほんの一部は染料を使います。詳細は後述します)。

例えば、橙色が必要であれば赤と黄の顔料を混ぜて作ります。
この様に、塗料の「色」は塗る前に作り上げるものなので、印刷のそれとは全く違う性質をもちます。そして、絵の具の色を混ぜたことがある方ならお分かりかと思いますが、顔料は混ぜれば混ぜるほど「色味」は悪くなり、あまり多くの色を混ぜると灰色になってしまします。
よって塗料はいかに少ない数の顔料で望みの色を出すかに苦心するのです。その顔料とは、樹脂と顔料と溶剤から構成されています。色を構成するものは、ほぼ99%が顔料であり(ほんの一部は染料を使っています)、この顔料の含有量を微妙に調整して必要な色を「作っている」のです。
ゆえに「塗装の色」を指示したり指定する際には、必ず「塗装用の色見本」を使うということは「技術上の共通のルール」としたいものであります。

現場塗装か、工場塗装か

塗装の発注者は、現場塗装か、あるいは工場塗装かの違いを、あらかじめきちんと研究してから、デザインや設計をすることはとても大切なことです。
まず現場塗装の場合、塗った塗料を乾燥をさせるには大半が天然(自然)乾燥で、その温度は当然常温となります。従って完成した塗膜は、工場のものよりは弱く、思い通りの色も出しにくいものです。
その上、工場に比べて機械化・自動化ができない為に人力に頼る割合がはるかに多く、人件費と時間がずっとかかるといえます。

一方の工場塗装はといえば、加熱乾燥が可能なので自然の天候に左右されることなく完璧な乾燥が出来るのです。しかも乾燥時間は短縮できる上に塗膜は強固、結果がまるで違う上に、時間も人工も少なくてコストダウンにもつながります。一般には建築現場の「内装塗装なら現場塗装」、「量産家具をデザインするなら工場塗装」というイメージがあると思いますが、以上のことからも、発注者はたとい建築の一部でもどうしたら「工場で塗れるか」と配慮することも、大事な計画の一部といえます。

工作社「室内」設計者のための塗装 岡田紘史著より