染料と顔料の違い
木材の塗装は他のそれと違う
「木材の塗装」が他の材料に比べて繊細な点が幾つかあります。
- 下地となる木材が生き物で、塗装後も「動く」こと。
- 天然材料が故、塗料の吸い込みにムラが生じ、塗りムラ、色ムラが生じ、均一化が他材料に比べてとても難しい。
- 天然素材でかつ可燃物故、乾燥に時間と手間が掛かる。
- 木材は塗料を塗ると、相当に丁寧に仕上げてあっても「毛羽立ち(グレインライジング)」が生じる。この為、「仕上がり」が悪くなるので、塗装の中間で「研磨」の工程を省けない場合が多い。
- 要求される「表面表情」が多種多様である。木材の木肌の表情(木目や杢など)を見せる場合もあれば、完全に塗りこめてしまう方法もある。色調も千差万別である。
下地を見せるか見せないか
以上の点は、木材を塗装する場合の問題点でもありますが、中でも(5)の「木肌を見せる」塗装法が最も難しく、手間のかかるものでもあります。ですが、せっかく美しい木目を見せたいと思うのは当然で、こうして木材の分野では「透明塗装」が発達してきたのであります。
それでは、設計者が木材の素地の表情を生かして透明塗装で仕上げたいと思ったら、それをどう塗装する人に伝えるか。これはまさに「木材透明着色仕上げ」のポイントとなります。素地に色をつけるのか、つけないのか。つけるならばどんな色か。素地の表情はどこまで見せるのか・・・。チェックポイントはたくさんあります。
染料と顔料の違いと現在の木材着色
家具の汚れがつくのを防ぎ、初めの美しさを永く保つため、またメンテナンスを簡単にするために、多くの場合表面を塗料で覆い保護をしますが、この場合、塗装することによって、素地のままより質感が生かされ、木材のもつ美しさを引き出すようにしなければなりません。
そこで木材の色をそのまま生かす透明塗装をする場合でも、まず素地にかすかに色をつけて均一化し、そあとで透明塗料を上塗りするということが多いのです。
1. 染料と顔料、そして染色と着色
染料と顔料のこれまでの常識は以下の通りでありました。
・染料:木材に染み込ませて素地をものに色を付けるが、素地の表面の表情は消さない。つまり素地の表情を生かした着色剤。
・顔料:素地に染み込まない。つまり、下の木肌が見えないため、素地が見えなくなる不透明な着色剤。
2. 顔料が限りなく染料に近づいた
ところが近年、顔料の研究が進み、限りなく染料に近づいたのです。特に「着色後の効果」では、ほとんど染料と遜色ないものになったのです。
それは顔料の粒子が非常に小さくできた為です。なぜ染料は素地に染み込んで、木肌を生かした染色が出来たかといいますと、その粒子が非常に小さかったからなのです。それが近年の顔料はこの染料に近いくらいの小さな粒子になったのです。
しかも顔料は染料よりも扱いやすいという利点があります。かくて木材に着色する場合、現在は顔料系の着色剤がはるかに多くなりました。
勿論、現在でも染料による染色も健在であり、例えば微妙な色調の青などでは、染料が活躍しています。
3. 現在「着色」が主流である別の理由
現在の顔料系着色剤は、耐久力があり、耐候性や耐光性も強く、かつ扱いやすいので、木材着色の主流になる大きな理由でありますが、その他の理由として、染料には「白」と「黒」がないということも挙げられます。
俗に言うパステルカラーの淡い色調を仕上げるにはどうしても半透明の「白」が必要となるのです。この「白」が顔料には存在するわけです。
家具の着色は2段階以上に重ねる
現在の家具の木材透明着色仕上げでは、最低でも着色層を「2段」に重ねます。ものによっては3段、4段、5段を重ねることもあります。その一つの理由としては素地着色だけでは「均一」にならないということ。そしてもう一つは着色層を重ねることによって、色調に深みがでるということです。
一つの例として、マホガニー色と言われている色調にしたい場合、素地をより赤身の強い色調で着色します。その上に透明塗料を塗ってこの第1着色層を保護(シール)します。この段階で1度研磨して塗面を平滑にして、次にやや黒味の強いマホガニー色の塗料を塗ります。そしてさらにこの上に透明塗料をシール用に塗って完了となります。
こうすると、第1層の素地着色の赤色と、第3層の塗膜着色層の茶色の2つの層が重なって、同一色を2回塗り重ねた場合よりも深みのあるマホガニー色になるのです。
以上のことから、設計者の方は家具を○○色の透明塗装にしたいと考えたら、まずプロに相談をしていただきたいのです。
プロはどうすればその色が出せるかを分かることは勿論のこと、言葉は表現しにくい微妙な色の要求に対して、テスト塗りを基に改良を重ねていくことで、複雑で微な色がだせて、かつ素地の表情が見える「透明着色」が可能になるからです。
工作社「室内」設計者のための塗装 岡田紘史著より