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鏡面仕上げの具体的な工程

固く肉持ちがいい塗料である

鏡面仕上げ(2)現代の鏡面仕上げは、ポリエステル樹脂塗料の登場によって可能になった。その最大の特色は「無溶剤性」であるとも述べた。この「無溶剤性塗料」の特色を理解するためには、普通の塗料の成分構成を復讐してみればよく分る。 普通の透明塗料は、樹脂分と溶剤でなりたっている。色のある塗料は、これに更に顔料が含まれている。溶剤は、塗料を塗りやするするための流動性を与える大事な役割をになっている。

塗った塗料が乾燥し、固体になるためには、、この溶剤分がなくならなければならない。だから塗料の多くは揮発性の大きい溶剤を使う。シンナーなどがその代表例である。強制乾燥は、この溶剤を少しでも早く「飛ばし、反応を促進させる」ための工程で、そのために熱を加えるのである。こうすれば早く乾くけれど、溶剤が蒸発してしまった分だけ、塗膜の肉厚は薄くなる。だから研磨するためには、何度も塗って肉厚を出すのである。

ところがこのポリエステル樹脂塗料は、無溶剤である。樹脂100%である。つまり、蒸発したりする成分がない。塗った塗料の全部が、塗膜になる。だから、肉持ちがいい。しかも、1回に塗ることが出来る厚みが、これ以前の塗料に比べてグンと厚くなった。塗ろうと思えば、1回で1mm厚位まで塗れるのだという。
これはすごい塗料である。普通の塗料の1回の塗膜は、最大40ミクロンだとすでに述べた。0.04mmである。だから仮に、1mmに塗るには25回も塗り重ねなければならない。それが1回で済んでしまうのだから、どれだけ簡単になったか分かるだろう。
1回にこんなに暑く塗ることはまずないそうだが、とにかく肉持ちがいいから、研磨までの工程がものすごく省略できるようになったのだという。その上、溶剤がないから素地の木材に吸い込まれることが極端に少ない。従って、オーバーに言えば、目止めの工程も不要なのである。
だから乱暴に表現すれば、素地に直接これを塗って、硬化するまで待ち、これをサンダー等で研磨すれば、鏡面仕上げは一丁あがり、である。

もちろん短所もあった

「一丁あがり」と前項では書いたけれど、これは話の勢いで、実際は当然それほど簡単ではない。
このポリエステル樹脂塗料の長所であると同時に短所は、乾いて固まったらとても硬いことなのである。だから表面を保護するためにはいいのだが、さて鏡面仕上にしようとすると、なかなか研げない。せっかく塗りの工程で省力化できたのに、研磨の工程に思わぬ時間を食ってしまうのである。この塗料が登場しても随分ながい間、作業性は悪いけれど他の長所が素晴らしいために、とにかく懸命に磨いて使っていたのだという。

けれども、現在では、この問題も解決している。つまり、硬すぎる欠点を補うために、体質顔料を加えたものが出来たからである。一般にはこれを「ポリエステルサーフェーサー」と呼んでいる。
体質顔料を加えると、塗膜は少し弱くなる。もろくなると言うこともできる。けれどもこの方が研磨しやすいのである。

もう一つの代表的な短所は、「水平」なものにしか塗れないことである。だから板状のものなら塗れるけれど、椅子のように複雑な構造と形をしたものには、残念ながら塗れない。こういう形のものは、垂直の部分が必ずあって、ここが塗れないのである。鏡面仕上げイコール箱物家具の扉やテーブルの甲板という現状は、この「水平にしか塗れない」という条件のせいなのだ。

鏡面仕上げの具体的な工程

ポリエステル樹脂塗料の諸性質が分かって頂けたところで、実際のこの仕上法の工程を簡単に述べておこう。

1. ヤニ止シーラーを塗る
このポリエステル樹脂塗料は、極端に言えば木材に直に塗れると前に書いたけれど、それは危険なのである。なぜなら木材に吸い込まれた塗料と、木材の成分たとえばタンニンなどが反応して「未硬化部分」が生じるか らで、こうなるとせっか肉厚に塗れても何もならないからである。従って、必ずウレタン系のウッドシーラーを塗って、いわゆる「ヤニ止」 をする。この方が安全だからである。

2. ポリエステル樹脂塗料を塗る
前述の通り、塗るものは「水平」にセットしなければならない。
これが絶対条件で、いくら水平に置けても表面に彫刻のあるもの等はダメである。この工程は専用機を使う。ところで、塗ろうと思えば1mm厚にでも塗れると前に書いたけれど、実際にはこんなに厚くは塗らない。なぜなら硬化する時に「収縮」が生じるからで、これは厚み方向だけでなく、横方向にも出るのである。具体的にはどのくらいの厚みに塗るかは、プロに任せた方がいい。木材の種類、生産ロットの関係、機械の性能などの様々な条件を組み合わせて決める問題だからである。
べつに、中塗りまでをこのポリエステル塗料で塗って、上塗りをポリウレタン塗料などで仕上げることもあるからだ。だから設計者やデザイナーは、「極端な厚塗りはしない方がいい」とだけ覚えてくれればいい、という。

3. いよいよピカピカに研ぐ
塗膜が研げる状態になったら、いよいよ「研磨」の工程である。まずサンドペーパーで研ぐ。この段階で注意すべきは、ペーパーの目(番手)の選択である。
大まかな目安をまず述べれば、800番、1000番、1200番くらいの3種を使うと思っていい。サンドペーパーで研いだら、次はコンパウンドで更に磨く。どんなに目のこまかいペーパーで研いでも、その番手の傷は塗膜表面についているから、これを磨かないと「本当の平滑面」にはならないのである。コンパウンドには、極粗目、粗目、中目、細目、極細目の5種類がある。

ペーパーとコンパウンドの選択

ではサンドペーパーの何番とコンパウンドの何目を使ったら、鏡面仕上になるのか。
実はこれが結構面倒な選択なのだという。たとえば800番のペーパーで研いで、極細目でこすっても、800番の粗さはとれないからで、ペーパーが800番ならまず中目で磨いてから再に極細目で磨く、というような工程になる。それなら最初から1200番で研げばいいかといえば、そうは問屋が卸さないこともある。やっぱり800番の方がいい場合もあるからである。

もうお分かりの通り、この最終研磨のペーパーとコンパウンドの選択(と組み合わせ)は、総合的に判断して決めるのだという。
だから、この辺の微妙な組み合わせもプロに任せた方がいいだろう、と山岸さんは言う。従ってデザイナーが指示すべきことは、ペーパーの番手などではなく、「どのくらいの鏡面」にしたいか、ということを正確に伝えることだという。そのためには、見本があるとなおいい。

光沢と平滑性とは違うのです

設計者やデザイナーは、「光沢を出したいので鏡面に仕上げてくれ」というような表現で注文するという。
ところが、塗装のプロに言わせると、最近の合成樹脂塗料などは塗っただけの状態の方が、光沢はずっとあるのだという。なぜならこれは専用の塗装機で完璧に塗るからで、塗料は自らの表面張力と流(る)展性(てんせい)で見事に光沢が出るのである。その光沢はソフトである。
鏡面仕上げにするためにこの表面を研ぐとういことは、傷をつけることになる。つまり、光沢は失われるのである。塗膜を研磨するということは、光沢を失うかわりに、「平滑な面を得る」ということなのだ。この点(違いと言ってもいいだろう)をきちんと理解しておいてほしい、と山岸さんは言う。

つまり、平滑にすることによって、光沢は失うけれど鏡の表面と同じようなリジッド(硬い)な表情にするのである。こうすると、光は乱反射しなくなる。つまり鏡と同じように、その塗膜面に当たった光は全てが同じ角度で反射するから、顔が映るほどにピカピカに見えるのである。

時間と、それに見合った予算を

以下、言い残したものをまとめておこう。まずはこの鏡面仕上げの表面は、すでに述べた通り鏡のように平滑だから、表面についた汚れは拭けば簡単にとれる。塗料も相当に強い(固い)から、傷もつきにくい。メンテナンスは楽だと言えるだろう。
ところで鏡のような「平滑な面」にも、この頃は「8分ツヤ」や「7分ツヤ」と俗称されている「ツヤ消し仕上」も要求されるようになった。この場合は体質顔料の含有量を調整した塗料でもう一度上塗りをする。そうするとこういう「表情」になる。
ただしこの「ツヤ消し平滑面仕上」で注意すべきは、メンテナンスの時のワックスである。これで拭くと、せっかくの「ツヤ消し」の効果がなくなって、こんな失敗もあるというから注意しておくこと。

そして、最後に言及すべき注意点は、時間とそれに見合った予算のことである。いくら工程が簡単になったとは言っても、鏡と同じくらいの平滑度を出すためには、研磨の工程には相当の時間と手間を食う。だから発注者は、現場の塗装者にその時間を与えなければ、どう騒いでも「鏡面」にはならない。設計の段階で、必ずこのことを念頭におくことである。

そして、その手間に見合った予算も当然、必要なのは言うまでもない。値切るだけ値切って、その後になって仕上がりが気に入らないと言っても、それは無理というものである。これも是非、忘れないでほしいという。

工作社「室内」設計者のための塗装 岡田紘史著より