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人の目はものすごい個人差がある

人の目はものすごい個人差がある

前項で塗膜の艶(光沢)には、顔がうつるほどピカピカの鏡面仕上から、ほとんど光を反射しない10分艶仕上まであると述べた。
では、鏡面仕上と呼ばれる塗装仕上は、どのくらいピカピカなら合格か?と問われたらどう答えればいいのか。ある人は顔がうつるくらいと言い、またある人はピアノの表面と同じくらい、と言うかもしれない。

こんな例ならあまり害はないが、ある塗装見本を示して「これと同じ光沢で仕上げてくれ」と発注して、出来上がったものを受け取って「見本と違う」と問題がおこることがある。ことがあるどころではなくて、しばしば生じるトラブルだという。
塗装見本を示してさえトラブルが生じるのだから、口頭で「半艶消仕上」にしてくれと指示した場合などは、さらに問題が生じる。結論を先に言えば、客観的な「数値」で争うしかない、と塗装のプロは言う。人間の目には実にいい加減なもので、ある人が「半艶消仕上」だと思う艶が、別の人には6分艶消しに見えるようなことがある。これでは論争にならない。単なる水かけ論である。

この水かけ論を防ぎ、文句をいう方も言われる方も共に納得できるようにするのが、「光沢度計」と呼ばれる計測器である。これで測って互いに数値を確認した上で話し合えば、問題は解決する。

ところで「塗装用語の混乱について」の項でも、この塗膜の艶の問題には少しふれた。この時は、発注者(設計者やデザイナー)は光沢度計は持っていないだろうと書いたのだが、幸いなことに国産で手軽な値段のもの(8~15万円くらい)があることが分かった。だから、発注者もぜひこれを備えてくれると助かる、と塗る方の人々は言う。

光沢度計の値は光の反射率である

光沢の基準は、JIS規格できちんと定められているのだという。光沢度計はこのJIS規格に準拠して造られている。その詳しい説明は混乱するから省略するけれど、要は計測するものの表面に一定の光を当て、それがどれくらい反射されかえってくるかを検知し、これを反射率に表すのである。その単位は百分率(パーセント)だが、一般にはただ数字の値だけをいう。たとえば、この塗面の光沢度は80だ、65だと言う。
光沢度計から発射された光が100%反射されて返ってくれば、光沢度つまりそのものの艶は100ということになる。半分だけ反射されるなら50で、半艶消ということになる。

今回は堀場製作所の「グロスチェッカーIG-320」を借りて、実際に塗膜の光沢を測ってみた。いろいろ図ってみたけれど、100(%)という光沢のものはなかった。根気よく探せば光沢度100というものもあるかもしれないが、塗装の表面では100が出ることは少ないという。まるで顔がうつるくらいに艶がある塗見本でも、光沢度計で測ってみると94~95くらいなのである。筆者の感じでは「これなら100だろう」と思ったものでも、こうである。すでに述べた通り、人間の目はこれくらい不確かなのだ。だからこそ、光沢度計の数値を基にした打ち合わせが必要なのである。

私たちの目は、実際に光沢度計で測ると80~90くらいの光沢(艶)の塗膜を、ほぼ100と受け止めているのである。事実、世間で鏡面仕上げと呼んでいる塗膜を測ってみると、80から95くらいの値である。つまり、光沢度計の値が80以上なら、鏡面仕上と言って充分に通用することが分かるだろう。

半艶仕上と呼ばれる塗膜の実際

すでに何度も述べた通り、塗膜の艶の状態を表現する時、塗装の業界では「○分艶消仕上」という。これは、永い伝統の結果そうなっているので、これを改めるのは簡単ではない。それに、設計者と塗装者が話し合う時、光沢の程度を示す用語としては便利でもある。たとえば、「このSKの扉は8分艶消くらいに仕上げたい」と言えば、両者の間に一種の共通の艶の程度が浮かぶからである。

そして、8分艶消仕上と言った場合、少しでも塗装に関係したことがある人なら、だれでも大抵は分かるという。ほとんど艶のない塗膜を想像する。そして、実際に光沢度計ではかってみても、だいたい思った通りの数値(光の反射率だから20ということになる)が出ているはずである。この逆に、2分艶消仕上(つまり8分艶ありである)も誰でも分かる。これは相当ピカピカしていて、鏡面仕上に近いものである。
問題は「半艶消仕上」である。理屈では「反射率50%」ということだが、さて、この塗膜は確かに「光沢度50」かと10人に聞くと、10人とも違う答になることさえあるそうだ。繰り返して恐縮だが、人間の目は、微妙な光の差はほとんど区別できないのである。 一番困るのは住宅の塗装で「半艶消仕上」という指示があった時で、建主と設計者と施工者と塗料メーカーの技術者の全員の「評価」が違う場合があるという。

こんな場合こそ、光沢度計の出番である。これで測って、その値が50なら確かに半艶消仕上として誰もが納得できるはずである。もちろん、もう少し艶を消したい、あるいは逆にもう少し艶を出したい、という「個人的な好き嫌い」が出ることもあるだろう。こんな場合でも、光沢度計の50を全員の基準として、これからプラス5とかマイナス5というように話を進めればいい。不安なら実際に50+5になるように見本で塗ってみて、これを基準に再び検討すれば「誰が悪い」と非難しあうこともなくなる。同じ土俵に上がっていれば、納得も早いわけである。

光の反射率と色・下地の材質の関係

半艶消仕上が個人差で違って見えるなら、6分艶消仕上も4分艶消仕上も微妙な点は同じである。つまり、艶消仕上の評価を検討するなら、光沢度計の数値という「客観的データ」を使うしか方法がないのである。
ところが、この光沢度計の数値で50と出ても、人間の目には「半艶消仕上」に見えない場合がある。それは、「色」の違いや、木材の透明仕上の場合の下地となる「木」によって生じる現象である。

ご存じの通り、黒は光を吸収する色である。逆に白は、光をよく反射する。だから、光沢度計の値が50と出ていても、黒の場合は「より艶あり」に見えてしまうのである。物理的な反射率の数値と、人間の目が感じる「感覚」が違うために生じるギャップである。白や黒といった代表的な色相の場合はまだ分かりやすいが、これが「モスグリーン」などの微妙な中間色となると、人間が感じる「艶の評価」は随分ちがってくる。だからこそ、光沢度計のある数値を出発点として、それよりプラスにしたりマイナスにするような確認法を使うべきなのだ。木材透明着色仕上の場合は、色相の違いによる他に、「木材の木理」によっても光の反射率は大きく左右される。これは色相以上に面倒である。木材は天然の産物だからで、同じオーク材でも極端にいえば板の1枚1枚が少しずつ違うから、反射率だって当然、微妙に違う。つまり、木材の木理によって艶の評価が変わってくるのである。

光沢度は「平均値」で検討すべし

木材の表情が違えば光沢度の値が違うということで分かる通り、塗膜の艶は同じ塗料で同じ方法で塗っても、同じ数値が出ない。木材ばかりではない。塗りつぶしのエナメル塗装仕上でも、A点とB点とC点で光沢度計は違った値を表示する。だから塗装のプロは、10点くらい別々の場所で計測して、なるべく誤差を少なくするように均等に塗る。それでも完全に10点を同じ値にすることはむずかしいのだという。だから、もし設計者と塗装者の間で「艶が違う」という論争が生じた場合は、計測した「平均値」で評価する。平均値が指示した値と大きく違う場合は、確かに塗った方に責任がある。場合によっては塗りなおすことになるだろう。それでも、光沢度計の数値という「同じ土俵」上の論争なら、納得しないわけにはいかない。クレームは常にこうありたいものである。なお、今回使った光沢度計は各店で測った値を99か所分メモリー装置で記憶する。しかも、スイッチをポンと押すとその99の値の平均値を即座に出してくれる。実に便利である。

この平均値の話のついでに、塗装工程やロット違いでも艶は微妙に変わる、ということを設計者に知っておいてもらいたい、と塗装者はいう。たとえばスプレーガン吹付塗装の場合、圧搾空気の圧力が高い時と低い時で、艶が変わるのだという。エア圧が高い場合はドライスプレーといい、艶は出にくい。圧力が低い場合はウェットスプレーといって、塗料が多く塗面に付着し、従って艶が出やすいのだという。同じ塗料で同じ機械で塗っても、この違いがある。つまり、塗り手がロボットでなく人間の場合は、人によっても艶が変わることがあるのだそうだ。

まして製造ロットが違えば当然、艶も微妙に変わる。こんな場合、工場の塗装現場では光沢度計で基準値を決めておき、これに合わせるようにしているのだという。だから、大量の製品を複数の工場に分散発注する場合は、要注意なのだ。製品が揃ってみたら、たとえばシステムキッチンの扉などで右と左の艶が違うという事故が起こりうるのである。こんな事故を未然に防ぐには、光沢度計の数値による基準値で互いに確認し合うしかないのである。

基準値は「同じ光沢度計」の値で

光沢度計の値は「相対値」である。絶対値ではない。だから、メーカーの違う光沢度計の値は比較の対象にしてはいけないのである。基準値を出すのにA社のBという光沢度計を使ったら、次に計測して検討する時も、必ずそれを使って数値を取ることである。同じメーカーの同じタイプでも、2台あったら基準値を出した方のものを使うべきなのだという。塗膜の光沢は、それほど微妙なのである。

ここまで読めば、もう言葉だけで論争したり評価したりすることがどれくらい危険で不正確なことか、お分かりだろう。設計事務所やデザイン事務所にも、光沢度計をそろえておく時代が来たようである。


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磨き作業に使う道具
右の機械がハンドポリッシャーで、回転部に布やスポンジのパッドを取り付けて磨いていきます。左のボトル3種類がコンパウンド(いわゆる磨き粉)です。
それぞれ粒子の粗さが違い、粗い物から順番に3段階に使用します。

工作社 「室内」設計者のための塗装 岡田紘史著より