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木材塗装ライブラリー

カシューという名の「漆系」の塗装

その塗膜は漆とそっくりである

カシュー色見本帳 <カシュー株式会社>本誌本欄の読者なら、「カシュー塗料」とその「塗膜の表情」はすでに何度も見たことがあるはずである。この塗料による塗装法は、現在では相当にポピュラーになっている。我が国の産業界にとって、なくてはならない「表面仕上材」の一つだと言っても過言ではない。
このカシュー塗料は昭和23年、現在のカシュー㈱の創業者の清水谷一郎氏によって発明され、昭和25年世界で初めてわが国で市販された。
けれどもそれがポピュラーだからといって、正しく評価され理解されているとは限らない。「カシュー塗装」はその典型例で、ポピュラーな割には本質が知られていない。だから「カシュー塗装」と言うと、大半の設計者やデザイナーは「ああ、あの『漆によく似てる』塗装だね」という表現をする。(写真/「カシュー色見本帳」カシュー株式会社)

ものを創るプロでさえこの伝だから、素人の消費者の中にはカシュー塗りと漆塗りの区別がつかない人が多い。したがってこれは時々業者に悪用(?)されて、カシュー塗りなのに漆塗りのように詐(いつわ)って売られることがあり、これがさらに評判を落とす原因になっている。つまり、カシュー塗料は半可通(はんかつう)の物知りがいたお陰で、「漆の代用品」という間違った評価を与えられてしまったうらみがある。
けれども、と、この塗料をよく知るプロは反論する。カシューは断じて漆の代用品ではないのである。それどころか、衰退の途をたどりつつある(!?)漆とその工芸の世界(地場産業といってもいい)を救った救世主だ、と言うのである。
カシュー塗料が漆の代用品か救世主かは、話が進めが徐々に分かることだから、まず「カシュー塗料と漆はなぜそんなに似ているのか」を述べておこう。


あのカシューナッツの木から採る

カシューナッツという木の実がある。勾玉(まがたま)のような形をした白い実で、酒の肴やケーキの材料として知られている。カシュー塗料は、このカシューナッツを包まれている油を原料にして製造する。 簡単に述べれば右の通りだが、このカシューの実の話がおもしろいので、少し横道にそれるけれど説明しておこう。カシューナッツは、「カシューナットツリー」と呼ばれる「熱帯性漆科」の木になる。この「漆科」というところは、記憶しておいてほしい。それはさておき、樹の姿は大木ではない。

さて、カシューの「実」である。この実は2重構造である。 実の上部は「カシューアップル」と呼ばれ、文字通り「リンゴ状」に成長する。「上のリンゴ状の実」は甘く、発酵させて果実酒や蒸留酒を作ったり、煮てジャムにしたりする。このカシューアップルの下部に接続して、とても硬い殻の「カシューナット」がなる。2重構造といったのはこのことである。この「下のほうの実」もまた有益で、殻(の中のスポンジ質)からはカシュー塗料などの原料になる「油(オイル)」を抽出する。最後に取り出した白い実が、食用となるカシューナッツである。

このようにカシューの実は捨てるところがないくらい利用できるけれど、日本では育たない。赤道を境にして南北約15度の範囲のそれも海岸よりの土地にしか成長しない。たとえばアフリカ大陸ではタンザニア、ケニアなど、それにインドやインドネシア、南米ではブラジルが山地である。したがって、食用の実も化学原料の油も、わが国はすべて輸入している。輸入ではあるが、各国とも商品化植物として植林が進んでいるため、生産量は安定し供給に不安はないという。


カシュー油が塗料になるわけ

さて、このカシューナッツの殻から採った油は、ずいぶん古くから使われていたという。1840年代の米国で、すでに木製の床の補強防腐剤として塗っていたという記録がある。べつにインドでは、鉄道の枕木の防腐剤として塗られていた。これは、このカシュー油(オイル)の主成分が「フェノール(石炭酸)系」の化合物だったためである。現在では自動車のブレーキライニングの原料として活用されている。

さて、このカシュー油に含まれる「カルダノール」という樹脂分が、カシュー塗料の主成分になる。その製造過程も話はきいたけれど、本題に関係ないので省略して先に進む。
主成分となるカルダノールは「不乾性油」のモノマーである。「不乾性油」とは、文字通り加熱しても乾かない性質の油である。その代表例が「天ぷら油」で、この種の油は加熱して使っても油のままである。天ぷらをあげるにはいいが、これでは塗料には不向きである。塗料は、乾燥しなければならないからだ。このモノマーからポリマーにするには難しいプロセスがある。この重合化の部分が「発明」で、特許(現在はもう切れた)だったという。この「カルダノール・ポリマー」に乾燥材を加えると、さらに乾きがよくなる。この塗料が乾くということは、酸素を取り込んで物質が酸化することだから、これを促進するためである。こうしてカシュー油は、めでたく漆にそっくりの塗料になったというわけである。

なぜカシュー塗料が発明されたか

漆はわが国が世界にほこるものの一つである。しかも漆をつかった品々は、私たち日本人の生活に深く濃密にはいりこんでいる。だから昔は当然、そして現在でも、漆は必須の原材料として一定の需要がある。ところが、その量が昔も今も足りない。漆の生産量は、今は手不足などの理由で当然足りないけれど、実は昔は昔で限りがあったからだという。
漆は、ご存じの通り、漆の木に傷をつけて、そこからしみ出す樹液を搾りとり、これを精製して作る「純粋天然材料」である。漆が搾れるように成長するまで、苗から育てて約10年かかる。やっと樹液生漆いきうるしが搾れるようになっても、その1本の木から搾れる漆の送料は約200gしかない。この総量200gをたったの1年で搾り取ってしまう方法を「殺しがき」といい、数年にわたって少しずつ採る方式を「養生がき」というそうだが、いずれにしても1本の漆の木から採れる総量に大差はない。

中国南部やベトナムなど南方産の漆はもう少し生産量が多いそうだが、だからといって5割増しというほどでない。従って量はいつの時代でも不足気味で、よって値段は常に値上がり傾向にあった。
もうおわかりの通り、「人工の漆」が熱望された理由は、「漆の取り扱い技術」を簡略化したいということだった。確かに漆はすばらしい塗料ではあるが、完璧にあつかえるようになるまでには、5年か10年という永い修行が必要である。何とかもっと簡単に扱えて、かつ仕上の表情は漆とそっくりのものが出来ないか---これが業界全体の強烈な希望だったのである。 カシュー塗料は、この2つの大木な要望を満たすものとして登場した「希望の星」だったのである。

漆が乾燥するメカニズム

カシュー塗料と漆を比較するためには、漆の特徴も知らなければダメである。そこで漆が乾燥する仕組みを少し復習しておこう。 漆は不思議な塗料である。ほかの全ての塗料は、乾燥して固まるために「水分」は不要である。不要どころか邪魔でさえある。ところが漆は、湿気(水分)がないと固まらない。
漆の主成分は「ウルシオール」と呼ばれる樹脂で、実はこれもカシュー油(オイル)と同じ「不乾性」である。この樹脂が不乾性なのにそのままでも乾く秘密は、「ラッカーゼ」という酸素が含まれているからなのだという。
ちなみに酸素は、常温常圧で化学反応をおこすことができて、しかも物質を合成したり分解したりする。ただし1つの酵素は、1つの目的にしか働かない。たとえばラッカーゼは、ウルシオールを酸化させるためにしか働かない。酵素のもう1つの特色は、水分がないと働かないことである。

だから漆は、湿気(水分)がないと固まらない(酸化しない)のである。温度が20~25度C、湿度が40~45%で、ラッカーゼが空気中の酵素を吸収し始める。65~70%で最もよくウルシオールを酸化し、硬く固まるという。
漆塗の工房や工場には、「フロ」と呼ばれる特別な乾燥室(装置)が必要である。漆をぬったものは何でも、必ずここに入れて乾燥する。これは、漆の乾燥に不可欠な「温度と湿度」を維持するための装置なのである。
漆はこの中で、酵素の働きでウルシオールが「酸化重合」されて高分子化されることによってあの固い塗膜になる。


カシュー塗料の乾燥の仕組

さて、カシュー塗料の感動の方式を述べよう。この塗料の主成分である「カルダノール」は、ウルシオールと非常によく似た分子構造を持っている。どこがどう似ていて、どの部分だけ違うかについて、分子式で説明を受けたけれど、これはあえて書かないことにした。なぜなら、分子式を見ただけで全てを敬遠してしまう「化学式アレルギー」の人が多いからである。
とにかく、ウルシオールとカルダノールの構造は非常に似ている。なぜこんなことがあるのか。その答えは簡単で、カシューナットツリーも「漆科」の植物だからである。

ところで漆科の植物は世界に4~5百種あるという。たとえば南洋産の果実の代表のようなマンゴーも、漆科なのだという。ただし、漆の木と同じ「漆科漆属」の木となると、漆の木のほかにはハゼやツタなど6種しかない。カシュー樹は、大分類では漆科だが、それをさらに小分類した漆属ではないため、その主成分カルダノールの分子構造が「ほんの少し」ウルシオールと異なるのだ。

工作社「室内」設計者のための塗装岡田紘史著より